登壇概要
「dynabook Future Work Lab 2026」にて、一般社団法人日本PMIサポート協会 代表理事 後藤俊輔が登壇しました。
講演テーマは、「PMIのリアルから解く なぜ『買収は成功、統合は失敗』が起きるのか」。
M&A成立後のPMI(Post Merger Integration/買収後統合)に焦点を当て、実際のPMI事例をもとに、買収そのものは成立しているにもかかわらず、その後の統合が思うように進まないのはなぜかを紐解きました。
さらに、PMIで発生する課題を「AIによって支援できる領域」と「人だからこそ向き合う必要がある領域」に整理し、これからのM&A・PMIにおけるAIと人の役割についてもお伝えしました。
M&Aの「成功」は、契約成立では決まらない
M&Aでは、契約締結やクロージングの瞬間が大きく注目されます。しかし、企業がM&Aを行う背景には、事業拡大、新市場への進出、技術・人材の獲得、シナジー創出など、それぞれの目的があります。
そして、その目的が実際に実現するのは取引成立後です。買収した企業同士の組織、人材、業務、制度、文化をどのようにつなぎ、新しい企業として価値を生み出していくのか。
本講演では、M&Aの成功を契約成立だけで捉えるのではなく、その後のPMIまで含めて考えることの重要性をお伝えしました。
M&A成立までを「限られた人数で走る短距離走」とすれば、PMIは経営者だけでなく、管理職や現場社員など、多くの関係者を巻き込みながら進める「多人数での長距離走」です。取引成立はゴールではなく、新しい組織づくりのスタートです。
実際の事例から考える、PMIが進まない理由
講演では、実際のPMI現場で発生した複数の事例を紹介しました。
- 買収後の技術承継が進まず、重要な技術・ノウハウが失われたケース
- 管理部門の集約や人事制度統合を計画したものの、半年経過しても統合が進まなかったケース
- 買収後半年でキーパーソンが相次いで退職し、経営と現場の信頼関係が崩れていたケース
これらの背景にある共通要因として、本講演では「機能の分断」と「時間軸の分断」を取り上げました。
デューデリジェンス、契約、財務、法務、PMIなどをそれぞれ別の専門家や担当者が担うことで、情報や判断がつながらなくなる「機能の分断」。
そして、取引成立を境に担当者や支援者が変わり、M&A前の判断や背景がPMIへ十分に引き継がれなくなる「時間軸の分断」。
各専門領域を個別に処理するのではなく、M&Aの目的からPMIまでを一連の経営プロセスとしてつなぐことが重要です。
PMIでは「技術的問題」と「適応課題」を見極める
PMIでは、すべての課題を同じ方法で解決することはできません。本講演では、組織変革で生じる課題を「技術的問題」と「適応課題」に分けて考える視点を紹介しました。
技術的問題とは、既存の知識や専門性を活用することで、一定の解決策を導き出せる問題です。例えば、
- デューデリジェンス
- 契約・資料の整理
- 財務・事業データの分析
- 情報の比較・論点整理
- 統合プロセスの可視化
といった領域です。
こうした課題については、AIの活用によって業務を効率化・高度化できる可能性が大きく広がっています。
一方で、企業文化の違い、従業員の不安、経営と現場の信頼関係、部門間の対立などは、仕組みや専門知識だけでは解決できません。
こうした「適応課題」には、当事者自身が対話し、考え方や行動を変化させながら、新しい関係性をつくっていくプロセスが必要です。
M&Aにおける大きな失敗要因の一つは、適応課題を技術的問題として処理してしまうことにあります。
AIで解決できること、人にしかできないこと
生成AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、M&A・PMIの進め方も変わり始めています。
デューデリジェンスの準備、資料分析、情報整理、論点抽出、プロセスの可視化など、AIが支援できる範囲は今後さらに広がっていきます。AIを活用することで、PMIで生じやすい情報の分断を減らし、意思決定に必要な情報を整理することも可能になります。
一方で、AIだけで組織を統合することはできません。制度やデータ上では統合されていても、そこで働く人が納得せず、実際に動かなければ、M&Aの目的は実現しません。
本講演では、
「AIが情報・分析・プロセスを支え、人が意思決定・対話・信頼関係の構築を担う」
という、これからのPMIにおけるAIと人の役割分担についてお伝えしました。
対話と信頼関係が、組織を動かす
適応課題を乗り越えるために欠かせないのが、対話に基づく信頼関係です。
講演では、技術承継に課題を抱えていた企業で、若手エンジニアが相手と真正面からコミュニケーションを重ねることで承継につなげた事例や、買収後の新社長が全従業員と1対1で対話した事例も紹介しました。
PMIでは、大きな制度や仕組みをつくるだけではなく、
- 「なぜこのM&Aを行ったのか」
- 「これからどんな会社をつくっていくのか」
- 「一人ひとりに何を期待しているのか」
を伝え、対話を重ねていくことが、組織統合の土台になります。
M&A成立直後の「変革の窓」を逃さない
PMIでは、何をするかだけでなく、いつ行うかも重要です。
M&A成立直後は、従業員にとって不安が大きい一方で、新しい会社や経営への期待も高まっている時期です。講演では、この時期を「心の窓が開いている状態」として説明しました。
このタイミングで経営者が現場へ入り、従業員と対話し、新しい組織の方向性を示せるかどうかが、その後の統合を大きく左右します。
時間の経過とともに変革への期待は薄れ、不満や諦めが固定化してしまう可能性があります。だからこそ、M&A成立直後からPMIを開始し、変革へのエネルギーが高いタイミングを逃さないことが重要です。
提供した視点
本講演を通じて、参加者の皆様に以下の視点を提供しました。
- M&Aの成功を契約成立ではなく、PMIまで含めて考える
- M&A前後を一連の経営プロセスとして捉える
- PMIを阻害する「機能の分断」「時間軸の分断」を防ぐ
- 技術的問題と適応課題を区別して考える
- AIを情報整理・分析・プロセス可視化に活用する
- AIに任せる領域と、人が担う領域を見極める
- 組織統合では対話と信頼関係を重視する
- M&A成立直後の変革のタイミングを活かす
単なるM&A・PMIの知識提供ではなく、M&A成立後に実際に人と組織をどう動かし、その目的を実現していくのかを考えていただく機会となりました。
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