一般社団法人日本PMIサポート協会

M&A後の統合はPMI推進体制で決まる。最強のチームを作る方法

はじめに

M&Aのクロージングを終え、いよいよ統合プロセス(PMI)を始動させる。しかし、誰が、何を、いつまでにやるのかが曖昧で、現場が混乱し、貴重な時間だけが過ぎていく。そんな事態に陥っていませんか。船頭のいない船が漂流するように、明確な推進体制なきPMIは必ず迷走します。放置すれば部門間の対立や責任のなすり付け合いが始まり、シナジー創出は画に描いた餅で終わってしまいます。本記事では、PMIの初動である「推進体制」の構築に焦点を当て、その最適な布陣と、成功に不可欠な経営陣の「エンドースメント」の重要性を解説します。

1. なぜPMIの推進体制は機能不全に陥るのか?

PMI成功のためには、クロージング後、最初の1ヶ月で強力な推進体制を固めることが鉄則です。しかし、多くの企業でこの初動につまずき、推進体制が形骸化、あるいは機能不全に陥ってしまいます。その背景には、M&A直後の組織にありがちな3つの構造的な課題があります。

1-1. 「片手間兼務」による推進力の欠如

PMIの責任者が、既存の部長職などと兼務のまま任命されるケースは少なくありません。しかし、PMIは通常業務の傍らで遂行できるほど簡単なプロジェクトではありません。結果として、責任者は日々の業務に追われ、PMIへのコミットメントが低下。統合プロジェクトは推進力を失い、ズルズルと遅延していくのです。

1-2. 権限の欠如と「部門の壁」

推進チームが組成されても、そのチームに十分な権限が与えられていないことがあります。各部門の利害が複雑に絡み合うPMIにおいて、権限なきチームは「部門の壁」を越えることができません。各部門長からの協力を得られず、調整業務は難航。結果として、何も決められない「張り子の虎」となってしまうのです。

1-3. 買収元主導による「一方的な押し付け」

推進チームのメンバーが、買収元企業の社員だけで構成されている場合も注意が必要です。これでは、被買収企業の従業員からは「一方的な押し付け」と見なされ、強い反発を招きます。彼らの協力なくして、現場の実態に即した効果的な統合はあり得ません。最初から「私たち対あなたたち」という対立構造を生んでしまうのです。

2. M&Aの成果を最大化する推進体制3つの構築ステップ

機能不全という罠を避け、PMIを強力に牽引する推進体制を築くためには、戦略的なアプローチが不可欠です。それは、組織の規模の大小にかかわらず共通する、3つの重要なステップに基づいています。

2-1. PMI専任組織(PMIO)の設置と役割の明確化

まず、PMIを専門に担う組織、いわゆるPMIO(PMI Office)を設置し、その役割を明確に定義することが重要です。PMIOは、統合プロジェクト全体の進捗管理、課題解決、各部門間の調整、そして経営層への報告といったハブ機能を担う「司令塔」です。これにより、責任の所在が明確になり、プロジェクトに強力な推進力が生まれます。

2-2. 買収先からもメンバーを選抜する「混成チーム」の組成

PMIOや各分科会のメンバーは、買収元と被買収企業双方から、その能力と意欲を見極めて選抜するべきです。この「混成チーム」を組成することで、両社の文化や業務への理解が深まり、一方的な押し付けではない、真に融合された解決策を見出すことができます。何よりも、このプロセス自体が、新しい組織の一体感を醸成する第一歩となるのです。

2-3. 経営トップによる公式な「エンドースメント(承認)」

推進体制を構築する上で、最も重要なのが経営トップによる公式な「エンドースメント(承認)」です。これは、新設されたPMIOとそのリーダーに対し、経営トップが全従業員の前で「PMI推進の全権を委任する」と宣言する行為です。このエンドースメントによって、PMIOは初めて部門の壁を越える「お墨付き」を得て、名実ともにPMIの司令塔として機能することができるのです。

3. PMI推進体制における各階層の役割

最強の推進体制は、各階層がそれぞれの役割を正しく理解し、責任を全うすることで初めて有機的に機能します。経営層、責任者、そして現場、それぞれの立場から何をすべきかを解説します。

3-1. 経営層の役割

PMIの最終責任者として、PMIOから上がってくる重要課題に対して、迅速かつ明確な意思決定を下すことが最大の責務です。また、PMIOが部門間の抵抗などで機能不全に陥らぬよう、その活動を擁護し、後押しする「防波堤」としての役割も担います。定期的に進捗報告会に出席するなど、経営層の関与を示し続ける姿勢が、プロジェクトの緊張感を維持します。

3-2. 責任者(PMI責任者/PMIOリーダー)の役割

PMI全体のプロジェクトマネージャーとして、計画の策定から実行、終結までの一連のプロセスを管理します。多様なバックグラウンドを持つチームメンバーをまとめ上げ、ベクトルを合わせるリーダーシップが求められます。また、複雑な課題を整理し、経営層が意思決定しやすいように論点を提示する、高度なコミュニケーション能力も不可欠です。

3-3. 現場(各部門の担当者/PMIチームメンバー)の役割

現場の役割は、策定された統合プランを、日々の業務レベルで実行に移していくことです。自部門の利益だけを主張するのではなく、常に会社全体の最適を考える視点が求められます。また、統合プロセスの中で発生した課題やリスクを、いち早くPMIOに報告する「センサー」としての役割も重要です。現場からの正確な情報が、PMIの精度を高めます。

PMIの羅針盤となる、強力な推進体制を初動で築く

M&Aの成功は、クロージング後1ヶ月の初動で、その方向性が大きく決まります。そして、その初動の核心こそが、強力な「推進体制」の構築に他なりません。
専任の司令塔(PMIO)を置き、両社から精鋭を集めた混成チームを組成し、そして経営トップが力強いエンドースメントを与えること。
この三位一体の体制を築くことではじめて、PMIという複雑で困難な航海を、迷走することなく、シナジー創出という目的地へと導くことができるのです。
もし貴社が、これから始まるPMIの推進体制構築に課題を感じているのなら、我々、一般社団法人日本PMIサポート協会にご相談ください。貴社の状況に最適な体制設計から、その円滑な運営まで、我々専門家が強力にサポートします。
→ 無料相談・お問い合わせはこちらから
https://pmi-support.jp/contact/