日本PMIサポート協会

PMIはなぜつまずくのか?M&A後の“あるある”構造

はじめに

M&Aの成功を左右するPMI(Post Merger Integration)。買収後の統合こそが本番であるにもかかわらず、多くの企業がこのフェーズで苦戦を強いられています。本記事では、PMIの“つまずきポイント”を構造的に整理しながら、どうすれば失敗を回避できるかのヒントを探ります。

PMIがつまずく5つの典型パターン

PMIでのつまずきには、多くの企業が共通して陥る典型的な構造があります。

第一に挙げられるのは、M&Aの目的や将来ビジョンが社内で共有されていないことです。「なぜこの買収を行うのか」「5年後にどんな姿を描いているのか」という根本的な問いに対する答えが曖昧なまま統合が始まり、現場には単なる“組織変更”としてしか伝わっていないケースは少なくありません。

次に多いのが、推進体制の不明確さです。PMIを担う専任チームが存在せず、経営企画部や人事部などが兼任で対応していることも多く見られます。買収をまとめたエグゼキューション部隊から“バトン”が正しく渡らないまま、実務レベルの統合が始まってしまうと、現場に混乱を招く結果になります。

三つ目は、コミュニケーションの断絶です。親会社と買収先の間では、そもそもの温度感や前提認識が異なっていることが多いものです。上層部で合意された内容が、現場には全く伝わっていない、あるいは曲解されているという状況が生まれやすくなります。とくに現場レベルでの対話が極端に少ない場合、摩擦や不満が表面化しにくいぶん、後から大きな火種となって現れます。

四つ目に挙げられるのは、成功定義の曖昧さです。PMIが終わったかどうかの判断基準が明確でないと、プロジェクトの目的も手段も曖昧になります。定量的なKPIだけでなく、組織の融合や文化的統一といった“見えにくい成果”についても、ある程度の到達基準を共有する必要があります。

最後に、外部支援の使い方にも課題があります。大手コンサルティングファームへの丸投げでは、個社の事情に即した支援が難しい一方で、自社内で全てを抱え込むと、PMI経験者が不在であるがゆえにノウハウの蓄積もままなりません。経験と柔軟性のある支援体制をどう設計するかが重要です。

規模が膨らめば増える構造的ハードル

更に大企業では、PMIの困難さがさらに増幅される要因があります。そのひとつが、社内の利害調整の複雑さです。部門や事業単位、あるいは国内外の子会社が絡むケースでは、調整先が多岐にわたり、統合にブレーキがかかることも珍しくありません。ときには特定部門の論理や慣習が全体戦略を歪める事態も発生します。

また、PMIはプロセス横断型のテーマであるため、縦割り組織の中では責任所在が不明確になる傾向があります。経営企画、人事、法務、ITなど各部門が「自分たちはサポートです」と主張し、誰もリーダーシップを取らない構造が生まれやすいのです。これが“責任の空白地帯”を生み、統合プロジェクトの停滞を引き起こします。

つまずきを回避するために必要な視点

PMIを成功させるためには、いくつかの鍵があります。まず重要なのは、「なぜこの買収をしたのか」という意図を明文化し、それを全社的に共有することです。PMIのキックオフ時点で、買収の背景や目指すシナジーを言語化し、被買収先に対しても納得感のあるストーリーとして伝える努力が必要です。

次に、PMIを「人と組織の統合作業」として捉えることです。システム統合や規程整備といった“ハード”だけでなく、心理的安全性や感情的な納得を生む“ソフト”への配慮が成果に直結します。とくに人事制度、チームビルディング、文化の違いへの理解と橋渡しは、PMIの成否を左右する要素です。

また、PMIのフェーズを段階的に設計し、それぞれに適切なKPIやマイルストーンを設定することも重要です。各段階での進捗確認とレビューを定期的に行うことで、見落とされがちな課題や遅延を早期に発見・是正できます。

さらに、ファシリテーション力のある外部支援の活用が有効な場合もあります。単に知識やレポートを提供するのではなく、合意形成を支援したり、現場の摩擦を調整できる専門性を持つ人材をフロントに立てることで、プロジェクト全体の推進力が大きく変わります。

おわりに

PMIがつまずく理由は、「うまくいく方法が存在しない」からではなく、「同じような失敗を繰り返してしまう構造が放置されている」からに他なりません。
今後もPMIにまつわる構造的課題に光を当てながら、より実践的な知見を深め、発信していきます。