M&A(企業の合併・買収)という言葉は、多くのビジネスパーソンにとって馴染みのあるものになってきました。しかし、意外と知られていないのが、M&Aは「買って終わり」ではなく、「買ってからが本番」だということです。
その“本番”を支えるプロセスこそがPMI(Post Merger Integration=買収後の統合)です。
本記事では、PMIとは何か、なぜ多くの企業がここでつまずくのか、そしてPMIを成功に導くために必要な視点について解説します。
M&Aの成功を左右する「その後」の話
PMIを一言で表せば、「M&Aで買収した企業と、買収した側の企業が一体となり、成果を最大化するための統合作業」です。
たとえば、製品ラインの統合、組織体制の再編、情報システムの整合性調整、人事制度のすり合わせ、企業文化の融合など、やるべきことは多岐にわたります。
経営者の間ではよく「買収は2割。残りの8割はPMIだ」という言葉が語られます。
これは、M&Aという取引そのものよりも、その“後処理”の方がはるかに難しく、かつ重要であるという現場の実感に基づいた言葉です。
なぜ多くの企業がPMIにつまずくのか?
実際、PMIで失敗したことで、買収効果を得られなかった企業は少なくありません。
以下のような“あるある”が頻繁に発生しています。
- 目的が曖昧なまま統合が始まる
→ 「何のためのM&Aか」が現場に共有されていない。 - PMIの専任チームがいない
→ 既存部門が片手間で対応し、優先順位が低下。 - “制度”は整ったが“人”が動かない
→ 現場の温度感を無視して一方的に制度を当てはめ、反発を招く。 - 大手コンサルと計画を立てたが、テンプレで終わる
→ 具体的な実行支援や泥臭い調整は社内に丸投げとなり塩漬けに。
PMIを成功させるのは、スーパーマンではなく“現場をつなぐ人”
多くの現場を見てきた中で、筆者が強く感じているのは、「PMIはいかに丁寧にコミュニケーションをとるか」だということです。制度やKPIは重要ですが、それ以上に必要なのは、
- 相手企業のキーマンと丁寧に対話する力
- 現場の声を経営に翻訳する力
- 異なる価値観や文化を“橋渡し”する力
といった、いわば“人と人をつなぐ力”です。
特に大企業においては、部門を横断するプロジェクト設計や、親会社と子会社の温度差を埋めるファシリテーターの存在が、PMI成否を左右します。
まとめ:PMIこそが、企業の未来を決める
M&Aが成功だったか否かは、「シナジーが生まれたかどうか」で評価されます。
その実行部隊であるPMIは、もはや単なる“事務手続きの延長”ではありません。
むしろ、変化をマネジメントし、企業の未来を再設計する“挑戦”の時間なのです。
この連載では、今後さらにPMIのフェーズ設計や統合失敗の要因、現場支援の工夫など、実務の中で“かゆいところに手が届く”テーマを掘り下げていきます。
「PMIって難しい。でも、ちゃんと向き合えば未来が変わる」
そんな実感を、読者の皆さんと共有できる場にしていけたらと思っています。